かけの素材について知る~鹿革~
「かけがえのない」
の語源になったという説もあるかけ。
弓道家にとってもそれだけ大切な道具の一つであり、ご自身の手に馴染んだかけは唯一無二のものでございます。
弓道具の一つであるかけは、全て鹿革で作られております。
今回はこのかけの素材である鹿革についてご紹介いたします。
かけに使われる仔鹿の革
かけには仔鹿(ことう)の革が使われております。
鹿一頭からわずかかけ一つ分の革しかとれません。
なぜ仔鹿の革が使われているのかと言いますと、その小ささに秘密がございます。
平安~戦国時代の頃は今のように牛肉を食べる習慣がなく、主に鹿肉を食べておりました。
その当時は残った皮を余すことなく使っていたので、武具に使用される革は全て鹿革でした。
その名残があるため、現在でもかけの素材は鹿革のみなのでございます。
それならば、大きい鹿の革でも良いのでは?
と思われる方もいらっしゃると思いますが、決してそんなことはございません。
実は小さい鹿でないと、肉が硬くて食べられないという事情があったのです。
ですから必然的に、仔鹿の革が使われてきたのでございます。
多くの利点を持つ鹿革
いくら昔の名残とはいえ、やはり鹿革自体に素晴らしい特性がなければ現代まで受け継がれることはなかったでしょう。
それだけ、鹿革には多くの利点がございます。
鹿革の手触りは柔らかく、人肌に最も近いと言われております。
牛革に比べると軽く、使い込むほどに手に馴染んでいきます。
また、水分や摩擦に強く、通気性があり、何年たっても老化しにくいと言われております。
ですから弓具のみならず、様々な武道具に鹿革は使われているのでございます。
鹿革に施されている「丸染め」と「燻染め」
翠山で販売しているかけには、「丸染め」と「燻染め」されたかけがございます。
それぞれの特徴についてご紹介いたします。
汗や湿気に強い丸染め
丸染めとは、染料の中に革を漬け込んで染める技法のことでございます。
革の中に染料が浸透するため、汗や湿気に強い革になります。
翠山ではチビ小唐の鹿革を使用していますが、
チビ小唐は汗や外気変動にも強くなっております。
また、革の風合いが良く、手に馴染みやすいのも特徴の一つでございます。
ですから、初心者~中級者の方向けの、入門編の弓かけとなります。
入門編の弓かけとは言っても、控え部分を硬くすることである程度の弓力には対応できるようになっております。
弓かけにとって重要な加工である燻染め
燻染め(いぶしぞめ)とは、鞣した鹿革を藁で燃やした煙で燻し、ヤニを付けることで茶色に染める技法のことでございます。
※鞣す(なめす)とは…動物の生の皮に加工をし、耐久性や柔軟性を持たせること。
藁から出る煙に含まれているヤニには油分があるのですが、
この油分があることによって丸染めした革以上の耐久性があります。
また、丸染めの染料よりも煙のヤニの方が軽いため、燻染めの弓かけの方が軽いのが特徴でございます。
また、燻染めを行うことで、防菌・防虫効果も高まります。
燻染めをすることにより革は柔らかくなり、汗や湿気に強い丈夫な革になりますので、
長くお使いになるであろう弓かけにとっては、燻染めはとても重要な加工なのでございます。
使う方にとって唯一無二のものになる弓かけ
かけというのは、長きにわたりお付き合いいただくことになる弓道具でございます。
最初は硬い革も使うごとに手によく馴染み、その人だけのかけとなっていきます。
鹿革は長期の使用にも耐えられる、素晴らしい素材でございます。
是非、革ならではの風合いの変化も楽しみながらお使いいただければと存じます。